目的
高齢者では、難聴や視力低下といった生理的身体機能の低下が不安に繋がり、さらに認知機能の低下による自己表現の乏しさは、他人に理解されないなどのストレスとなり、不安をより強く、そして慢性的にする。慢性的な不安は心理的苦痛や身体症状として現れ、日常生活に支障をきたすことが知られており、早期に治療することが重要とされている。
しかし、こうした不安を「ただの心配性」と捉えて、治療につながっていないケースが多い。今回、治療に至っていない不安障害の高齢者にパロキセチンを投与し、不安障害の寛解が見られた。その詳細について報告する。
症例の概要
96歳 女性
| 現疾患 | C型慢性肝炎、高血圧、閉経後骨粗鬆症、過活動膀胱、便秘症、腰痛症、緑内障(両眼) |
|---|---|
| 介護度 | 要介護1、独居。認知機能は年々低下。 |
左目の緑内障が進行しており、定期的な眼科受診と点眼薬で経過を見ていた。
体調不良のため、2週間ほど点眼薬を使用できず、緑内障がさらに進行し、左目がほとんど見えないと訴えるようになった。失明してしまうのではないかという不安と認知機能の低下から、夜間・休日の架電回数が徐々に増加した。架電内容は、「目薬を差したかわからなくなった」や「目薬は差し忘れたら、どうすればいい?」など点眼薬に関するものが多かった。
電話の様子からパニック状態であることが伺えたため、内科主治医と相談し、パロキセチン10mgを開始した。投与後の夜間・休日の架電状況から不安障害の変化について検討を行った。
結果と考察
パロキセチン10mg開始前後30日間における夜間・休日の架電件数が20件から9件に減少した。しかし、投与55日目に夜間・休日の架電件数が、11件と急増した。服薬状況を確認したところ、投与52日目〜54日目の3日間パロキセチン10mgを飲み忘れたことが原因と推測された。
その後、パロキセチン10mgを再開し、架電回数は減少したが、対話が成立しないほどの興奮状況が伺えたため、主治医に報告し、パロキセチン20mgへ増量となった。パロキセチン20mgへ増量した前後10日間の夜間・休日の架電件数は25件から27件と変化は見られなかった。
しかし、10日間のうち、夜間・休日の架電日数は5日から2日へ減少した。さらに開局時間内における架電件数は32件から17件へ減少した。この結果、高齢者の不安障害に対し、パロキセチンが奏功したことが示唆された。