タガメットという薬が発売されたのは、わたしが薬剤師として働き始めた頃のことでした。新薬勉強会に、岡山市のホテルに行った記憶があります。H2受容体拮抗薬という概念は、大学時代には聞いたことがなく、駆け出しの私はワクワクしながら話を聞いたものでした。
この寄稿にあたって色々と思いを巡らせましたが、年をとったからかどうしても「昔」を思い出してしまいます。薬剤師国家試験も「昔」と「今」でずいぶん変わりましたね。当たり前ですが、昔は薬の数が今より断然少なかったので、今の薬学生は私が学生の頃よりたくさんの薬を勉強しているわけですから、本当に尊敬します。 生活様式もずいぶん変わりました。昭和の村には、テレビや電話が各家庭にはありませんから、私も見たいテレビ番組を隣の家に行って見せてもらった記憶があります。今は家に何台も、一人何台もテレビや電話を持っているなんて、想像もできなかったことです。
私の趣味の読書も同じです。若い頃は本屋で、棚に並んだハードカバーの背を見て、手に取り、どれを買うか悩んで悩んで、1-2冊買って帰ったものでしたが、最近では、電子書籍やスマホで読書。どんなにたくさん読んでも、電子書籍なら積んだ本が崩れたりしませんし、どの本を買ったか、私よりアプリが覚えてくれるので、同じ本を間違えて2冊買うことだってありません。
でもやはり、私は昔の人なので、昔ながらの紙の本の良さも知っています。悩んで選んだ本を買って帰る時の鞄の重さ、家の本棚に並んでいるのを見る満足感や、紙の匂いや手触りも、同じ本を2冊買ってしまったことさえも、素敵な思い出です。
冒頭にお話ししたタガメット、今も使われているのかな?と思って調べたら、別の作用が見つかり、適応外で見直された様ですね。薬も、時代の流れの中で、流行り廃りや、効能が見直されたり副作用が見つかったり、移ろうものだと思います。私も、一時のことに囚われすぎることなく、「今」も「昔」も大切にして、広い視野と精神をもとうと決意を新たにしました。