RSウイルス(Respiratory Syncytial Virus)は、特に乳幼児や高齢者に重篤な呼吸器感染症を引き起こすウイルスです。2019年には世界で約3,300万人の5歳未満児がRSウイルスによる下気道感染を発症し、約360万人が入院したと推定されています。日本でも年間10万例以上が報告されており、その影響は無視できません。COVID-19の流行によりワクチンの重要性が再認識される中、RSウイルスに対する予防策の必要性も高まっています。

RSウイルス感染症の特徴
RSウイルスは生後1歳までに半数以上の乳児が感染し、2歳までにほぼ100%の子どもが感染を経験します。感染は一度きりではなく、生涯にわたって繰り返されることが特徴です。多くの場合は軽症で済みますが、特に乳幼児や高齢者では肺炎や細気管支炎を引き起こし、重症化することがあります。インフルエンザやCOVID-19と同様に、呼吸器症状を伴うため鑑別が難しいことも課題です。
新しいワクチンと抗体薬
これまでRSウイルスに対するワクチンや治療薬は存在しませんでしたが、近年になり新たな予防策が登場しました。
| 製品名 | ワクチン/抗体薬の種類 | 対象/効果 | 
|---|---|---|
| アレックスビー® | 1価ワクチン(アジュバント含む) | 60歳以上の高齢者向け | 
| アブリスボ® | 2価ワクチン(アジュバントなし) | 妊婦を対象とし、出生児の感染リスクを低減。 60歳以上の高齢者も使用可能。  | 
| ベイフォータス® | 抗RSウイルスヒトモノクローナル抗体製剤 | 1回投与で約5カ月間予防効果が持続。 | 
ワクチンは両方とも単回接種で済みますが、現在のところ公的な定期接種には含まれておらず、接種率の向上には制度的な支援が求められます。
まとめ
これまで対症療法が中心だったRSウイルス感染症ですが、新たなワクチンや抗体薬の登場により予防の選択肢が広がりました。特に高齢者や乳児にとって大きなメリットがあり、今後の普及が期待されます。ワクチンや抗体薬の認知度向上と、接種機会の拡大が課題となるでしょう。
