近年、がん領域や自己免疫疾患のみならず、多岐にわたる疾患で抗体医薬が臨床の主役となっています。私たちが日常的に耳にする「~マブ(-mab:monoclonal antibody)」という名称ですが、実は2021年以降、命名ルールが大きく変更されていることをご存知でしょうか。
従来の命名ルールと限界
これまでは、語幹(suffix)の「-mab」の前に、由来を示す「-u-(完全ヒト型)」や「-xi-(キメラ型)」、標的を示す「-li(m)-(免疫系)」や「-t(u)-(腫瘍)」などを組み合わせるのが通例でした。例えば「アダリムマブ」であれば、「免疫系を標的としたヒト型抗体」であることが一目で判別できたのです。
しかし、抗体医薬の開発が爆発的に進んだ結果、使用できるアルファベットの組み合わせが限界に達し、WHOは命名規則の刷新を決定しました。
新しい4つのカテゴリー
新ルールでは、由来を示す中間語(infix)が廃止され、構造や特性に基づいた4つの新しい語幹が導入されました。
| 新語幹 | 読み | 対象となる抗体の特徴 |
|---|---|---|
| -tug | ~ツグ | 未修飾抗体(unmodified immunoglobulins) |
| -bart | ~バルト | 人工抗体(antibody artificial) |
| -mig | ~ミグ | 多重特異性抗体(multi-immunoglobulin) |
| -ment | ~メント | フラグメント抗体(fragment) |
また、疾患領域等を示すサブステムも細分化されました。従来、免疫調節作用は「-li-」に集約されていましたが、新ルールではアレルゲンを意味する「-ler-」、免疫賦活の「-sto-」、免疫抑制の「-pru-」などが追加され、より詳細な分類が可能となっています。
現場での視点
最近承認された新薬の名称に、違和感を覚えた方もいるかもしれません。これまでの感覚では「マブ」で終わらない名称が登場し始めているからです。今後は「~タツグ」や「~バルト」といった名称が一般的になっていくでしょう。
名称から薬剤の構造的特徴を推測することは、副作用プロファイルや安定性を理解する一助となります。新旧のルールが混在する過渡期ではありますが、名称の末尾に注目することで、その一剤が持つ「設計思想」が見えてくるはずです。