WEB会報

カテゴリー

vol.276 2025年7月号

知っておきたい、エビデンスのある漢方薬

岡山県病院薬剤師会 DI委員会 春木 祐人

古来より日本人の健康を支えてきた漢方薬。その効果は長年の経験則に基づくものとされてきましたが、近年では科学的なエビデンスを持つ漢方薬が注目を集めています。今回は、現代医学の厳密な検証を経た漢方薬についてご紹介します。

  1. 大建中湯:腹部の冷えや膨満感に用いられ、メタアナリシスで手術後イレウスへの有効性が報告されています(Anticancer Res. 2017)。
  2. 抑肝散:小児の夜泣きや神経過敏に用いられてきましたが、認知症の行動・心理症状(BPSD)に対するランダム化比較試験(RCT)で有効性が報告されました(J Clin Psychiatry. 2005)。
  3. 六君子湯:胃腸虚弱や食欲不振などに用いられ、RCTで機能性ディスペプシアや胃食道逆流症への効果が確認されています(Neurogastroenterol. 2014、Journal of Gastroenterology 2012)。
  4. 半夏瀉心湯:がん治療の副作用である口内炎や下痢を改善し(Cancer Chemother Pharmacol. 2003)、患者のQOL向上に貢献します。

エビデンスの重要性と今後の展望

これらの漢方薬は、RCTなどの厳密な臨床試験により効果が科学的に裏付けられ、複数の診療ガイドラインにも掲載されています。これは、西洋医学と東洋医学の融合が進む証と言えるでしょう。

漢方薬のエビデンス構築は、まだ始まったばかりです。五苓散(むくみ)、補中益気湯(慢性閉塞性肺疾患)、加味逍遙散(更年期障害)など、他にも有望な漢方薬が研究されています。一方で、よく知られる風邪に対する葛根湯には十分なエビデンスがなく、RCTにて総合感冒薬と大差ないといった報告もあります。

今後、さらに多くの漢方薬のエビデンスが蓄積されることで、より幅広い疾患に対して効果的な治療選択肢が増えることが期待されます。

「エビデンス漢方薬」は、伝統医学と現代医学を結ぶ架け橋です。科学的根拠を得た漢方薬は、これからの医療において重要な役割を担い、患者さん一人ひとりに合わせた、より良い治療の実現に貢献すると信じています。

2025年7月号の一覧へ戻る

印刷準備中です。しばらくお待ちください...

※時間がかかる場合は「キャンセル」して、
「Ctrl」+「P」で印刷してください。