これまで脳研究の興味の大部分は、ニューロンやニューロンが形成するシナプスを介したネットワークに焦点を当てたものだった。しかし脳の中にはニューロン以外にも働きを持った要素がたくさんあり、細胞外スペースとそれを取り巻く微小循環を織りなしている、「別の脳のはたらき」がある。
つまり、本書のタイトルの「脳を司る脳」である。 著者は「脳がいきているとはどういう事か」をスローガンに、基礎研究と医学研究の橋渡しを担う研究を目指している。
現代では、分子レベルからニューロンのネットワークレベルまで様々なレベルからのアプローチによって、脳が動物の行動や心理にどのような影響を与えているのか、あるいは動物の行動や心理がどのような脳のはたらきによって実現されているのかを明らかにしようとしている。
人間らしさとはどういう事かを考える時、その要素の一つに「知性」が挙げられる。知性とは、答えがないことに答えを出そうとする営み。新しいものや、考え方を発明することが知性であり、今の私たちの活動も知性の営みである。
一方、知能とは、答えがある事に、素早く、正確に答える能力。コンピュータが得意とするのは、この知能である。
情報伝達は、脳の機能発現に、意識や知覚、気分や注意などの高次な脳機能を用いて、アナログ的な調節をして役割を果たす。
脳を理解するためには、脳を構成する細胞や遺伝子、蛋白質などの物質そのものでなく、それ等の関係性を明らかにすること、つまり時々刻々と変化するその相互作用を知る必要がある。
ニューロンを取り巻く環境が、時々刻々と変化し続け、ニューロンと相互作用をし続ける事こそが「こころのはたらき」という状態になるのである。
ひるがえって、私たち自身もまた、日々変化する環境の中で、様々な人や物事の影響を受けながら、また自分自身も人に何らかの影響を与え、変化しながら生きている。変化し続ける脳内の環境が、知性やこころのはたらきを織りなし、それゆえ私たちは「生きている」と実感できる。脳の仕組みはまだまだ分からない事が多いが、それだけに魅力的でおもしろいものである。