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vol.276 2025年7月号

薬局プレアボイド@おかやま(2025年1~3月報告分)

委員長 田坂 祐一
副委員長 立野 朋志

平素よりプレアボイド報告事業へご理解ご協力をいただきありがとうございます。

2025年1〜3月分のプレアボイド報告として、91施設より延べ246件の報告をいただきました。業務等でご多忙の中、ご報告いただき誠にありがとうございます。報告いただいたプレアボイド事例の中から分類毎にいくつかの事例を紹介します。ご確認いただき、日々の業務等にお役立ていただけますと幸いです。

検査値に基づく疑義照会により処方が変更となった事例

サムスカ®顆粒による高ナトリウム血症の重篤化回避

サムスカ®顆粒(トルバプタン)を継続服用中の患者の検査値を確認したところ、血清ナトリウム濃度が147 mmol/L(基準範囲:138–145 mmol/L)と高値であった。サムスカ®顆粒による副作用と考え疑義照会したところ、サムスカ®顆粒は減量となった。投薬時、患者へは水分補給を行うよう指導した。

腎機能に合わせたレボフロキサシン錠の投与量調節

レボフロキサシン錠500 mgが処方された患者。腎機能を確認したところeGFRは38.0 mL/minと中等度低下していた。レボフロキサシンは腎排泄型であるため疑義照会したところ、1日目は500 mg/日、2日目以降は250 mg/日に減量となった。

腎機能を踏まえたセフジニル錠からアジスロマイシン錠への変更

セフジニル錠100 mgが3錠分3毎食後で処方された患者。患者は透析中であり、腎排泄型薬剤であるため疑義照会したところ(透析患者では1日100 mg 1回投与が推奨)、セフジニル錠は腎機能低下時も常用量使用可能なアジスロマイシン錠250 mgに変更となった。

薬歴の確認に基づく疑義照会により処方が変更となった事例

気管支喘息とCOPDに対するチモロールマレイン酸塩(点眼薬)の投与回避

コソプト®配合点眼液(ドルゾラミド塩酸塩・チモロールマレイン酸塩)が処方された患者。コソプト®配合点眼液は炭酸脱水酵素阻害薬+βブロッカーの配合剤であり、患者は気管支喘息とCOPDの治療中であったため疑義照会したところ、コソプト®配合点眼液は処方中止となった。

エンレスト錠の過量投与回避

エンレスト®錠(サクビトリルバルサルタンナトリウム水和物)が増量となった患者。これまで100 mg/日(100 mg錠を1日1回1錠)で服用中であり、今回400 mg/日(200 mg錠を1日1回2錠)に増量になっていた。増量幅が大きいため疑義照会したところ、200 mg/日(200 mg錠を1日1回1錠)に変更になった。

お薬手帳の確認によるプレドニン®錠のスケジュールに沿った漸減の実施

退院後、入院先とは別の病院を外来受診し、プレドニン®錠(プレドニゾロン)が処方された患者。お薬手帳で確認したところ、入院時よりプレドニン®錠は漸減中であったが、今回の処方では退院処方と同量(45 mg/日)から漸減が始まる形となっており、退院処方に対しては減量となっていなかった。疑義照会したところ、プレドニン®錠は退院処方から1段階減量(40 mg/日)となり、外来でも当初のスケジュール通りに漸減が継続された。

パロキセチン錠の急な中止に伴う抗うつ薬中断症候群の回避

パロキセチン錠を10 mg/⽇で数カ⽉にわたり服⽤していた患者。今回受診の際に「調⼦がいいから薬を減らそう」と⾔われ、パロキセチン錠が削除された処⽅せんを持参された。パロキセチン錠の添付⽂書では抗うつ薬中断症候群に対する注意喚起として「突然の投与中⽌は避けること」とされており、疑義照会したところ、パロキセチン錠10 mg 1⽇0.5錠が追加となった。

併用薬の確認が併用禁忌や同種同効薬投与の回避に繋がった事例

入院先薬剤部への問い合わせによる薬歴の把握と処方医への情報提供(併用禁忌薬の投与回避)

退院後、初めての外来となる処方せんを受け付けたところ、循環器科からエンレスト®錠(サクビトリルバルサルタンナトリウム水和物)が追加になっていたが、内科から併用禁忌であるエナラプリル錠が処方されていた。退院時情報提供書、お薬手帳に記録がなく、患者本人に聞いても入院時の医学管理について不明であったため、入院していた病院の薬剤部に問い合わせたところ、「入院中にエンレストが追加になり、その時からエナラプリルは中止になっている」と経緯が確認できた。内科の処方医に疑義照会してこの旨を情報提供したところ、エナラプリル錠は処方中止となった。

薬歴管理に基づく併用禁忌薬の投与回避

レビー小体型認知症に伴うパーキンソニズムに対してレボドパ製剤を服用中の患者。エクフィナ®錠(サフィナミドメシル酸塩:MAO阻害薬)が追加されたが、レクサプロ®錠(エスシタロプラムシュウ酸塩:SSRI)を服用中であった。両剤は併用によりセロトニン症候群発現のおそれがあり14日間以上の間隔をあける必要があるため、疑義照会したところ、エクフィナ®錠は相互作用のないノウリアスト®錠(イストラデフィリン:アデノシンA2A受容体拮抗薬)に変更となった。

お薬手帳の確認が同種同効薬の投与回避に繋がった事例

ベオーバ®錠(ビベグロン)を定期服薬している患者。お薬手帳を確認したところ、都合により受診が遅れた間に受診した他科よりベタニス®錠が処方されていたことに気付いた。患者に確認したところ、医師にお薬手帳を提示せず、追加処方についての報告もしていなかった。今回の処方医に疑義照会で確認したところ、他科で追加処方されたベタニス®錠を中止するよう指示があった。

マイナポータルでの薬剤情報の閲覧が同種同効薬の投与回避に繋がった事例

ロラタジン錠が処方された患者。マイナポータルで薬剤情報を閲覧すると、他院からビラノア錠(ビラスチン)が処方され服用していることが確認された。同種同効薬になるため処方医に疑義照会し、ロラタジン錠は処方中止となった。


PICK UP事例 No.1

服用薬による副作用発現を疑い情報提供し、副作用の重篤化回避・QOL向上に貢献した事例

60代女性。ニフェジピンCR錠20 mg、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)、サイアザイド系利尿薬が継続処方されていた患者。患者より「最近夜間頻尿で2時間おきに起きてしまう」旨を聴取した。

詳しく確認したところ、ニフェジピンCR錠が開始になった頃より症状が出現したとのことであったため、カルシウム拮抗薬による夜間頻尿の副作用を疑った。サイアザイド系利尿薬は遠位尿細管に作用するため夜間頻尿には影響しにくい点と合わせて、他の降圧薬に変更できないか処方医に情報提供して相談した結果、ニフェジピンCR錠の用法が夕食後から朝食後に変更となり、夜間起きる回数は平均1回程度と改善が認められた。患者から服薬後の体調変化を聴取し、服用薬剤の特性と合わせて医師に情報提供することで、副作用の重篤化回避と患者のQOLの向上に貢献できた。

解説

アダラート®CR錠(ニフェジピン)の添付文書では、その他の副作用(0.1〜5%未満)として「頻尿」が記載されています。夜間頻尿診療ガイドライン[第2版](日本排尿機能学会/日本泌尿器科学会)では、カルシウム拮抗薬が尿産生を亢進させる機序として、以下の3つが指摘されています。

  1. 血管拡張による強い降圧効果(食塩排出を介さない降圧)のため、食塩感受性高血圧では、昼間の塩分排泄が十分行われず、夜間まで塩分排泄をせざるを得ないため
  2. 腎動脈および腎輸入細動脈の拡張により、腎血流が増大して糸球体濾過量が増加するため
  3. 夜間臥位になることで、副作用として発現した下腿浮腫が重力により循環系に流れ込むため

また、本ガイドラインでは、カルシウム拮抗薬と下部尿路症状との関連性を検討したシステマティックレビュー1において、カルシウム拮抗薬により夜間頻尿・下部尿路症状が悪化することを示した複数の論文が採用されていること、本邦からも同様の報告2がなされていることが記載されています。

 本事例では、ニフェジピンCR錠の服用タイミングを夕食後から朝食後に変更することで夜間頻尿は軽減されました。アダラート®CR錠のインタビューフォームを参照すると、高齢者において20 mg反復投与時の最高血漿中濃度到達時間tmaxは3.3時間であり、夕食後に服用すると、tmaxが就寝前後となる場合もあると予想されます。これらのことから、本事例では、服用タイミングの変更により夜間の最高血漿中濃度到達を回避でき、夜間頻尿の軽減に繋がったものと思われます。加えて、有害事象の因果関係評価においては、「症状は被疑薬の服用後に発現しているか?」という時系列や、「症状を引き起こす可能性のある薬剤以外のほかの原因があるか?」などの他の要因を評価することが大切です3。本事例では、これらの評価を踏まえて医師への情報提供が実施されており、これは伝わる情報提供・提案を行ううえでも重要なポイントです。

1Biomed Res Int. 2017:4269875. 2017
2J Clin Med. 10(8):1603. 2021
3Clin. Pharmacol. Ther. 30(2), 239–245. 1981

(事例は添付文書等の記載に基づき、一部編集して掲載しています)


報告時の注意点

プレアボイドとは、薬学的介入により患者の不利益(副作用、相互作用、治療効果不十分など)を回避あるいは軽減した事例が該当します。「医師へ報告した」「医師へ検討を依頼した」のみで処方変更や検査の追加、副作用の軽減などがない事例はプレアボイドには該当しませんのでご注意ください。

プレアボイド報告入力時には、疑義照会・処方提案・服薬指導等により、どのようなアウトカムが得られたか(どのような不利益を回避・軽減したか)を意識して記載いただきますようお願いいたします。

岡山県薬剤師会会報2020年3月号p.9「プレアボイド報告フローチャート」もご参考ください。

本委員会では、以下を目的として、皆様からご報告いただきました情報を共有させていただきます。

  1. 未だ確立されていない薬局プレアボイドを標準化(定義化)すること
  2. 分析・収集した情報を地域へ還元し、薬局と病院・診療所間の連携を促進すること
  3. 薬局と病院・診療所間で情報共有できるシステムを構築・運用し、地域において安定的に情報収集・分析・共有ができる仕組みを確立すること
  4. 地域(支部)の活動において、プレアボイド事例が薬薬連携の充実のための重要なファクターとして認知され、薬剤師職能向上のために活用されるようにすること
  5. 薬局薬剤師が普段から行っている薬剤師業務を見える化し、薬剤師職能を国へアピールし、薬剤師職能が認められるようにすること

引き続き継続的なプレアボイド報告をお願いいたします。

安全管理特別委員会ではプレアボイドの実践とプレアボイド報告入力 に関する支部研修会を開催しています!

  • プレアボイドは聞いたことがあるけどよく分からない
  • プレアボイド報告に興味はあるけど、忙しくてなかなか一歩を踏み出せない
  • Pharma-PROsは知っているけど使い方がよく分からない

そんな方にオススメの分かりやすい入門編の研修会になっています。お気軽に岡山県薬剤師会事務局までお問い合わせください!

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