緒言
「薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会」にて示された「薬局薬剤師の業務及び薬局の機能に関するワーキンググループとりまとめ~薬剤師が地域で活躍するためのアクションプラン~」では,将来の推計として,薬剤師の供給人数は需要を上回り,淘汰されると言われている一方で,急速に進む少子高齢化社会に対応し,より少ない労働人口で社会を支えられるよう,薬剤師はより患者や地域住民に必要とされ,活用されるような存在になるべく,一層の対人業務の充実と研鑽の必要性に関して触れられている1).このことから入職後の新人薬剤師に対しては対人業務に積極的に取り組み,他職種や地域との繋がりを創出できるようになるための臨床教育が非常に重要になるといえる.薬局薬剤師への臨床教育としては,これまでに特に在宅やコミュニケーションに着目したものが多く考案され,一定の効果が得られていると報告がある.2)3)4)しかしながら新人薬局薬剤師への卒後教育として国で統一されたモデルはなくその方策としては各薬局での on the job training (OJT)の実施に留まっているのが現状である.ゆえに卒後教育は入職した医療施設や個人のモチベーション任せになっていると推察でき,対人業務や自己研鑽への意識には個人間で温度差が生じていると考えられる.
本研究の実施に向けた予備的調査として2024年度に実施した就実大学薬学部生を対象とした薬剤師業務および学習への意識調査(以下;前調査)においては,学生の薬剤師の業務内容に対する興味には項目ごとにばらつきがあることや,学生自身の実務実習後の学習に対するモチベーションの低下,自己評価の低さなどの問題がある可能性が抽出できた.また実務実習経験によって興味の上昇した項目も見られ,薬剤師の資質向上として体験を伴う臨床教育が重要な要素となりうることが示唆された.
このような状況を踏まえ,われわれは前調査の対象を岡山県薬剤師会所属の薬局薬剤師へ拡大したアンケート調査(以下;本調査)を実施した.本調査結果から,経験年数による薬剤師業務への取り組み状況の変化を抽出するとともに,前調査での学生の薬剤師業務への意欲の度合いと本調査での薬局薬剤師業務への取り組み状況とを比較することで,現時点での新人薬剤師の対人業務に対する問題点を明らかにし,結果から経験年数の浅い薬局薬剤師の対人業務充実につながるような学習方策を検討したので報告する.
方法
2025年5月27日から2025年6月24日の期間中,岡山県薬剤師会に加入している薬局薬剤師を対象に匿名で回答可能なwebアンケートツール(googleフォーム)を用いてアンケート調査を実施した(図1).実施にあたっては調査の趣旨をフォーム冒頭に記載し,アンケートに同意する場合のチェック項目を設け,回答をもって参加への同意を得たとみなした.フォームへの回答の依頼は岡山県薬剤師会ホームページに記載したほか,メールにて周知し回答を募った.アンケートの調査項目は回答者属性(4項目),勤務先の薬局での勤務状況(2項目),資格取得の有無および今後の資格取得希望の有無,薬剤師業務への自身の取り組みの度合い(13項目),現段階での自己評価,受講経験のある研修の形式,研修の受講形式ごとの受講希望の度合い(7項目)の計30項目とした.回答者属性および勤務先の薬局での勤務状況については単純集計,薬剤師業務への興味の度合いおよび研修形式ごとの受講希望の度合いについては5段階のリッカート尺度を用いて集計し,薬局実務経験年数5年前後で群間比較を行った.アンケート結果の統計処理はSPSS ver23(IBM)を用いてMann-WhitneyのU検定およびstudent-t testを採用しP<0.05を統計的に有意として解析した.
なお本研究は就実大学教育・研究倫理安全委員会および一般社団法人岡山県薬剤師会倫理審査委員会の承認を得て行った.(受付番号325 承認年月日 2025年1月8日)・(受付番号R06倫第7号 承認年月2025年3月26日)
アンケート調査結果
1.回答者属性と勤務状況
期間中276名の薬局薬剤師から回答を得た.回答者属性を表1に示す.
回答者のうち,薬局勤務年数5年以下の薬剤師は計46名(16.7%),5年以上の薬剤師は230名(83.3%)であった.また,うち就実大学卒業生は43名(15.6%)であった.
回答者の勤務する薬局の勤務状況を問う質問では,勤務先の薬局での就労薬剤師1人と回答した方が23名(8.3%)いた一方で,就労薬剤師11名以上と回答した方が18名(6.5%)存在していた.勤務先の薬局での1か月に応需する処方箋枚数は1001枚~2000枚と回答した薬剤師が117名と最も多く,全体の42.4%を占めていたが,50枚以下と回答した薬剤師も4名(1.4%),5001枚以上と回答した薬剤師も12名存在した.
また,回答者のうち,209名(75.7%)は何らかの専門薬剤師・認定薬剤師資格を取得していると回答し,63名(22.8%)は取得していないと回答した.また,今後何らかの専門薬剤師・認定薬剤師資格を取得したいと回答した薬剤師は144名(52.2%),取得したくないと回答した薬剤師は129名(46.7%)であった.




2.薬剤師業務への取り組みの度合い
各薬剤師業務の実施状況に関して,各設問は5点尺度のリッカート尺度を用いており,理論的には順序尺度であるが,間隔尺度とみて分析を行っても問題を生じないとされていることから6)各項目の平均値で比較した.結果を表2に示す.
薬剤師業務への取り組みの度合いに関して,5:十分に実施している,1:全く実施していないの5段階で回答してもらったところ,全体として最も取り組み度合いが高かったのは
【疑義照会】であり,その平均値は4.536であった.一方全体として最も取り組み度合いが低かったのは【災害医療】であり,その平均値は2.022であった.
また,勤務年数5年以下の薬剤師の回答(46件,以下;新人群)と勤務年数6年以上の薬剤師の回答(230件,以下;ベテラン群)を比較したところ,新人群では全13項目中10項目において勤ベテラン群より十分に取り組めていると評価していた一方,【多職種連携】【学校薬剤師】【災害医療】の3項目に関しては有意に実施程度が低いと回答していた.
また,【地域活動】の項目に関しては新人群で平均1.957,ベテラン群で平均2.061と,いずれも取り組みの度合いの点数が低く,両群に有意な差は見られなかった.

3.希望する研修の方式
希望する研修の方式について,その受講希望の度合いに関しても5段階評価で回答を得た.結果を表3に示す.各項目について,新人群とベテラン群で比較したところ,10-6.職場外の医療現場に研修者として入職し,患者からの質問対応や疑義照会を経験する研修 という設問のみ,新人群有意に受講希望の度合いが高かった(p=0.008).そのほかの項目に関しては差が見られなかった.

4.自己評価
回答者には「薬剤師としての自身の能力に点数をつけるとしたら何点か」と問い,0~100点で点数をつけてもらった.結果を表4に示す.その点数は新人群よりもベテラン群のほうが有意に高かったが,その平均値は65.4点とかなり低い点数であった.

5.学生との比較-薬剤師業務への興味と達成度
さらに今回,前調査の学生の回答と今調査の薬局薬剤師の薬剤師業務に対する設問の回答を比較した.結果を 図2に示す.各項目に分けた薬剤師業務に対し,学生の「取り組みたい度合い」よりも薬局薬剤師の「現場で取り組んでいる度合い」がより高かった項目を【学生の興味よりも現場でより熱心に取り組んでいる項目】,また学生の「取り組みたい度合い」が薬剤師の「現場で取り組んでいる度合い」よりもより高かった項目を【学生の興味に対して現場の取り組みが不十分な項目】と評価した.今調査では,「調剤」「疑義照会」「服薬指導」「薬歴記入」「情報提供」の5項目を【学生の興味よりも現場でより熱心に取り組んでいる項目】と評価し,「健康食品・サプリメント販売」「健康サポート」「他職種連携」「地域活動」「学校薬剤師」「災害医療」の6項目を【学生の興味に対して現場の取り組みが不十分な項目】と評価した.また,この6項目の内「地域活動」に関しては,学生の興味の度合いに対し薬局薬剤師の取り組み度合いが低いのみならず,新人群・ベテラン群でその取り組み度合いに差がなかったことから,「現場の新人・ベテラン薬剤師ともに取り組みが不十分な項目」とも評価した.

考察
今回,岡山県内の保険薬局に勤務する薬局薬剤師を対象としたアンケート調査を実施した.回答者の勤務状況として,いわゆる1人薬剤師の形態で勤務する薬剤師がいる一方,薬局薬剤師11名以上が勤務する薬局にて勤務していると回答した薬剤師も同程度存在しておりその勤務体制には幅があるといえる.
また今回,前調査の学生の回答と比較する形で,薬局薬剤師を対象としたアンケート調査を実施し,検討を行った.
新人群ではベテラン群と比較し,【多職種連携】【学校薬剤師】【災害医療】に関して有意に実施程度が低いと回答していた.前調査の結果と比較し,これらは学生の興味に対して現場での取り組みが不十分な業務と評価した.これらの項目は経験豊富なベテラン薬剤師が担うことも多いため,新人薬剤師には普段あまり馴染みのない項目であったと推察される.
一方,【地域活動】は新人薬剤師,ベテラン薬剤師ともに取り組みの度合いが低い項目であった.前調査でも学生の薬剤師業務の中で【地域活動】に対する興味の低さは問題と述べたが5),現場薬剤師も,地域活動に対する取り組み状況が不十分と認識しており,その認識は年齢やキャリアを重ねても向上が見られなかったことから,薬局薬剤師のキャリア形成において地域活動参画の経験が十分とはいえないことが示唆された.したがって,現状では薬局薬剤師による地域活動は十分な実施が困難な状況にあると推察されるだけではなく,薬局勤務経験だけでは達成することが難しい業務であることが推察される.しかしながら対人業務充実を考えるとき,地域活動は実践的な対人業務の一例であり,取り組みを強化することで今後薬局に求められる健康サポート業務推進にも寄与できると考えられることから,今後薬剤師の卒後教育として積極的に取り入れていきたい業務であると考える.
また,新人群では,職場外の研修受講をより望んでいると回答していた.地域活動に関しては,調査結果から薬局単位では実施が困難な状況にあると推察されるため,今後新人薬剤師の卒後教育の観点からも,とくに入職5年以下の新人薬剤師にとって,地域活動を基盤とした体験型研修の実施が有効と考える.研修にて職場内外の薬局薬剤師と連携しつつ,地域活動を体験し,その後薬局に戻り地域の課題解決に繋げる能動的な学習体験の機会を作ることで,入職した医療施設の状況によって生じている対人業務に対する実施状況の差やモチベーションの差を埋めることが期待でき,新人薬剤師の対人業務への意識の向上が可能となるのではないかと考える.
本調査は岡山県薬剤師会のプラットフォームを利用し,不特定多数の岡山県内に勤務する薬局薬剤師から回答を得たものの,岡山県内に勤務するすべての薬局薬剤師からの回答は得られていない.また今調査にて,薬局薬剤師の薬剤師業務への取り組み状況や希望する研修の形式については5段階評価にて回答を得ており,回答の精度は高いとはいえないのが事実である.
しかしながらわれわれは今後この結果をもとに新人薬局薬剤師の対人業務の充実に資する効果的かつ実装可能な卒後教育モデルを構築することで,より適切な新人薬局薬剤師の学習支援およびキャリア支援の方策の提示につながり,薬剤師業務の専門性および資質の向上に寄与することが期待される.
謝辞
本アンケート調査回答にご協力をいただきました岡山県薬剤師会の皆様に深謝します.
引用文献
1) 厚生労働省 薬局薬剤師の業務及び薬局の機能に関するワーキンググループとりまとめ 令和4年7月11日 <https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/000963758.pdf>
2)石尾 みほ,安倉 央,髙見 陽一郎,髙橋 正志,加地 弘明.マスカット薬局における患者対応力向上を目的とした模擬服薬指導グループワーク研修の実践とその評価.就実大学薬学雑誌,11,82-87,2024.
3)田中 直哉, 丸山 恵, 雨谷 鮎子, 早乙女 慶子, 富川 恵里,道山 恭美子, 近藤 澄子, 田中 秀和, 佐藤 均.保険薬局における薬剤師のコミュニケーション教育の導入とその評価,YAKUGAKU ZASSHI,128(1), 97-110,2001.
4)羽田 和弘,安藤 基純,山本 清司,渡邊 法男,浦野 公彦,尾関 佳代子,河原 昌美, 松浦 克彦,脇屋 義文.アンケートに基づく保険薬局薬剤師を対象とした注射薬混合調製研修会の評価とリカレント教育を視野に入れた今後の展望について,薬局薬学,16,54-63,1号,2024.
5)石尾 みほ,花田 麗聖, 河野 奨, 加地 弘明.2024年度就実大学薬学部全学生を対象とした薬剤師業務及び学習に対する意識調査―薬局薬剤師の対人業務充実につながる学習方策検討に向けて.就実大学薬学雑誌,12,46-51,2025.
6) Carifio J,Perla R:Resolving the 50-year debate around using and misusing Likert scales,Med Educ(42),1150-1152,2008.