4年に1度のサッカーワールドカップが幕を閉じました。日本の選手の試合はもちろん、スペインとアルゼンチンという、同言語の強豪国同士による緊迫した決勝戦を早起きしてご覧になった方も多かったかと思います。
さて、今回は近年のアンチ・ドーピングをめぐる象徴的な話題についてお話ししたいと思います。
1.ドーピング容認大会「エンハンスト・ゲームズ」が示した限界
2026年5月に米国(ラスベガス)で初開催された、「エンハンスト・ゲームズ(Enhanced Games)」という大会をご存じでしょうか。
「エンハンスト(拡張された)」が何を意味するかというと、なんと「ドーピングを制限せず、薬剤も使用して究極の体を作って臨みましょう」という前代未聞のコンセプトです。高額なボーナスを掲げて世界記録の更新があおられ、どのような結果が出るのか世界中から注目が集まっていました。
しかし、蓋を開けてみれば、4時間に及ぶ大会の中で世界記録(非公式)が誕生したのは、競泳男子50m自由形(クリスティアン・ゴロメエフ選手)のわずか1種目のみでした。
さらに驚くべきことに、あえて「クリーン(薬剤不使用)」で挑んだオリンピックメダリストのフレッド・カーリー選手(アメリカ)が、男子陸上100mを9秒97で走り、ドーピングを行ったライバルたちを抑えて見事に優勝を果たしたのです。
そもそもこの大会に参加した選手のレベルという議論はあるかもしれませんが、この結果は「薬物の使用によるパフォーマンス向上には明確な限界があること」の証明になったのではないでしょうか。
筋肉を増強するタンパク同化ステロイド薬や、中枢神経を興奮させる物質には、ホルモン異常、心血管系への負荷、肝機能障害、精神的副作用など、重篤な健康リスクが伴います。多大なリスクを冒して薬物を使っても、決して魔法のように勝利が手に入るわけではありません。人間の本来のポテンシャルや、日々の正しいトレーニングの偉大さを改めて教えられる結果となりました。
2.ワールドカップで発生した「非意図的ドーピング」
もう一つの話題は、ワールドカップに出場したチュニジア代表チームの事例です。
複数の選手から、禁止物質であるクレンブテロール(β2刺激薬:筋肉増強や脂肪分解を狙って畜産業で違法使用されることがある物質)が検出されてしまいました。調査の結果、原因は滞在先のメキシコで摂取した「食肉の汚染」によるものとみられており、アスリートの意図しない「うっかりドーピング(非意図的ドーピング)」の典型例として波紋を広げました。
私自身もアスリートからよく相談を受けますが、海外遠征時の食事には細心の注意が必要です。一部のアジア圏などでは、家畜に漢方由来の成分を含んだ飼料を食べさせているケースもあり、それを口にしたアスリートがドーピング陽性になってしまうリスクもゼロではありません。そのため、海外遠征の際は「可能な限り安全なタンパク源(プロテインなど)を持参し、出所が不明な現地の肉類は避ける」といった具体的なアドバイスが重要になります。
おわりに:お仲間の募集
現在、スポーツファーマシスト特別委員会では、岡山県スポーツ協会と連携しながら、アスリートのための相談窓口としての機能を果たしています。
「意図的なドーピングは無意味であること」、そして「日常の食べ物からでも『うっかりドーピング』のリスクは潜んでいること」を正しく伝え、選手を守ることが私たちの使命です。
私たちは、こうした活動を共に行う仲間を募集しています。
スポーツファーマシストの資格をお持ちの先生、ぜひ委員会活動に参加してみませんか?
ご興味のある方は、薬剤師会事務局へ「スポーツファーマシスト特別委員会の活動に興味がある」と、ぜひ一言お声がけください。皆様のご参加を心よりお待ちしております!